ロジカルシンキングから見た”システムシンキング”の見え方

ロジカルシンキングが相応に浸透し、かつ、それだけでは解けないことが多くあることに気づいたためだろうか、ここ数年、ビジネスマン向けの本の中でも新しい考え方のアプローチを謳った言葉を耳にするようになった。その代表格は、デザイナーの思考スタイルを学ぶことで発展した”デザインシンキング”だろうし、また、自然現象や戦争をより深く理解しようとして発展した”システムシンキンング”だろう。

 

私の通うUCLのInstitute of Innovation and Public Purposeは、経済学の観点から”合理主義”(いわゆる合理的な個人 - Homo Economicus)の限界を主張している研究機関でもあり、新しい思考スタイルの吸収を積極的に試そうとしているためだろう、システムシンキングは全授業の第1週目にあたるタイミングで講義があり、デザインシンキングは一つのモジュールとして全10回程度の授業を受けることとなった。こちらの吸収力の問題を横に置いて言うとすれば、どちらの講義も、実践的なフレームワークに落とし込まれるところまで到達していないように見え、悪く言えば輪郭のはっきりしない、良く言えばまさに発展を遂げている(実践的なフレームに落とし込まれるということは陳腐化が始まったと同義と捉えられるので)、といった内容であった。

 

日本にいるときにも、デザインシンキングもシステムシンキングもよく耳にしてきたし、何度か概要を調べたり、軽めの本を読んだりはしてきている。なので、全く無知というわけではなかったが、未だもやもやしているので、今一度立ち止まって、まずはシステムシンキングに関して、有益だった内容を整理するとともに、いくつかの疑問に答え直してみようと思う。

 

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Source: Intergalactico (2018), Is systems thinking the new design thinking?


システムシンキングとは?
システムシンキングとは、突き詰めれば、”循環関係”を起点にした考え方である。銀行にお金を預けて金利によってお金が増えていく、といったことを思い浮かべて頂ければよい。預金額が増えれば利子が増え、利子が増えればそれだけ預金額も増え続ける。こういった関係をものごとの中で見出し、的確に状況を把握していこうというアプローチだ。我々の日常的な言葉でも、好循環・悪循環といった一方向に強化される形で進む循環は想像するにたやすい。

 

世の中の状況はもう少し複雑なことが多く、これとは質的に異なる”循環関係”がいくつも存在する。例えば、ウサギの繁殖を考えるとして、ウサギのつがいが子供を3匹以上生み・育て続ける、と加速度的に数が増え続け地球を覆いつくすことになる。ただ、そんなことは実際には起こらない。他の制約条件によって、この循環自体が抑制されるからだ。例えば、他の動物に捕食されるとすると、ウサギのつがいが3匹以上を次の世代まで繋ぎ続けることができないため、ウサギの量はいずれ、一定の量で落ち着くことになる。ここには他の循環関係が存在しており、ウサギの量が増えてくると天敵に見つかり、捕食されるケースが増えて、増殖し続ける循環を抑制するのだ。他にも、いくつか典型的なパターンはあり、「実践システム・シンキング」(著:湊宣明氏)に紹介されていたMITのJohn D. Sterman(2000年)が示した6つの類型などは、その理解に役に立つが、ここでの説明はここでまでにしようと思う。


ロジカルシンキングとの違いは何か?

システムシンキングで特徴的なことを、ロジカルシンキングとの比較を意識しながら抽出するとすれば、
 1.要素”間”の与え合う影響についての考慮
 2.”結果”も要素の一部
 3.”時間軸”の存在(やや長め)

といった点が大きそうだ。先のウサギの例で言えば、ウサギと捕食者、ウサギと次世代のウサギといった”関係”を捉えつつ、“結果”指標であるウサギの数は変化し続けるウサギの数に大きく依存し、そもそも世代を超えるような長いスパンで“時間”を捉えようとしている、といった点が対応する

 

ロジカルシンキングとは決定的に異なるのか?
私が常々思っていたことは、ロジカルシンキングにはこうした機能が無いのか?といったことだ。えてして、システムシンキングの提唱者は、ロジカルシンキングと比較した場合の革新性を謳おうとするので、あたかもロジカルシンキングには無い機能のように説明がなされてしまうため、私は途中で理解ができなくなってしまう。ただ、個人的な結論としては、ロジカルシンキング(従来型のやり方)でも当然ながら、上記を補足しているケースは多い。ただ、得意不得意で言うとシステムシンキングの方が得意といった感じだと思われる。

 

例えば、ロジカルシンキングの基本的なスタイルは分類する、まさに、その分類の際に、できる限り、分けられた要素はお互い関係が薄いものになるように分類することが多い。意図的に、考慮がわずらわしい要素間の関係を断つことで思考をシンプルにしている。システムシンキングの一つの特徴として結果を要素として捉えると記載したが、ロジカルシンキングでは、結果は要素を積み上げて出来上がると捉えられているケースが多い。また、ロジカルシンキングは時間軸を意図的に分けていないため、時間依存的な問題を、時間の観念を忘れて分析しがちな傾向がある。

 

 1.要素”間”の与え合う影響についての考慮

  → ロジカルシンキングでは、要素に注目。要素”間”は抜け落ちがち
 2.”結果”も要素の一部

  → 要素に組み込まない
 3.”時間軸”の存在(やや長め)

  → 時間を意識的に分けることはない。意識する場合もやや短め

 

とはいえ、ロジカルシンキングでも、時に、要素間の関係が重要なことに気づけば、それを補足する形で議論を発展させているケースも多いし、明示的では無くとも結果のもたらす影響は多くの場合加味されている。当然、時間軸が考慮されていないということは無い。要は、軸足がどちらにあるか、の問題と捉えておいた方が良い。

 

使い分けはどう考えるか?

一方で、システムシンキングはその要素”間”の関係性、結果の影響、時間軸を、中心的な命題として捉えようとしている。そのため、これらを注視したい時には、システムシンキング的な分析アプローチが良いと言えるのだろう。

 

ただ、冒頭で、ロジカルシンキングの対抗馬のような書きぶりでスタートさせたが、システムシンキングを正しくできるようになるためには、あくまでロジカルシンキングが必要であり、むしろ、ロジカルシンキングが捉えにくい命題を捉えるのに、システムシンキングが役に立つ、といった捉え方の方が個人的にはしっくりくる